反抗

 

 

ナイジェルとナタンはニューヨーク行きの飛行機に乗った。そこではナイジェルの兄弟で一番上の兄、ザックの家で二週間滞在する。ザックはブルックリンに住んでいた。街に出かけるにはいい場所だ。飛行機の中で、ナイジェルが、ザックは常に人に対して温かいのだが、奇妙な振る舞いをすることがあると言い、そうなった理由を話した。ザックは優秀な学生で、その優秀な成績で彼はニューヨークの大きな弁護士事務所に入った。彼はそこで数年働き、お金を稼いで結婚した。そこまではすべてがうまくいっていたが、ある日車で大きな事故に遭い、何週間もの間昏睡状態に陥った。助かるかどうか心配された。昏睡状態を脱したとき、彼は自分自身ではなくなっていた。その後の数週間、ザックはアルコールに溺れ、職を失い、友人を失った。ついには妻が出ていった。そしてロサンゼルスの特別病院に入院した。そこで酒を断つことができたのだが、その病院にいる間に不思議なことが起きた。ザックはガンジーの全集を読んでいて、マハトマの活動を継ぐことが彼の使命なのだと気がついたのだ。ナタンはその話をよく聴いていた。ナイジェルは続けた。ザックは頭を剃り、白い服のみを着るようになった。毎年、ガンジーが暗殺された記念日に、血の象徴として赤い服を身につけた。彼の家では、時計がすべて17時で止まっていた。それはガンジーが人々と一緒に祈りを捧げていたときに暗殺された時間だ。ザックは非暴力を提唱する活動を継がなければならないのだと考えた。恵まれない人々を連れて、不公平に対して暴力を使わずに反抗することを試みた。ザックは、人類を苦しみから解放するためには世界規模で意識化することが必要だと言った。

「お兄さんは自分の役割をどう考えているの?」ナタンが訊ねた。

「兄は弁護士の経験を活かして貧しい人々を助けているんだ。弁才は全く失われていない。企業のトップに会って、家を失った人々を雇用してくれるように頼んだり、ニューヨークの通りで不公平を解消しようというデモ活動を指揮したりしているんだ」

「お兄さんのことが心配じゃない?」

「どう思っていいのかわからないよ。すでに自分のお金や持っていた物はほぼ投げ打ってしまったんだ。唯一持っているものはブルックリンにある家だよ。それに毎月保険金手当をもらっているんだ」

ナタンはその話を熱心に聴いていた。ナイジェルの話に心を打たれていた。

「君なら兄を助けてあげられるんじゃないかな」ナイジェルが言った。

ナタンはそう頼まれたことにとても驚いた。だがそれに答えようとしたとき、機長がニューヨークに飛行機が到着したことを告げた。ザックは待合室で二人を待っていた。見かけが驚くほどガンジーに似ていた。やせていて、頭を剃っていて、小さなメガネをかけて、白いパンツと白いコートを身につけていた。ザックは冗談を言って、すぐに会話の調子が明るくなった。ナタンが長い旅をしていることを聞くと、彼はとても興味を持った。ザックは、本当のニューヨークを発見しないかと言った。ナタンはそれを受け入れた。その午後、ザックは古いライトバンを取りに行って、玄関の前に停めた。ナタンとナイジェルはその車に乗った。これまでのところ、ザックの振る舞いには特に変なところはなかった。ナタンは、ザックがしばしばガンジーの言葉を引用していることには気がついていたが、彼がとても分別のある人だと思った。ザックはまず大通りを走って、流行の店が並ぶ中にそびえ立つ超高層ビル群を見せた。三人は車を停めてお昼を食べに行った。ザックは人気のレストランに連れていった。ザックが注文をしたとき、彼は大きくはっきりした声で小講義を始め、みんなベジタリアンになったほうがいいと言った。人を傷つけないようにユーモアを交えて話した。しかしナイジェルは少し落ち着かない様子になった。ナタンの方は楽しんでいるようで、だんだん彼の人となりに惹かれていった。ザックは意外な挙動を見せることがあった。しかし、彼の見た目と振る舞いが、その弁才とはとても対照的だった。食事のあと、3人は車に戻った。ザックはブロンクスとクイーンズのある方向に向かった。最も貧しい地区を通ったのは偶然ではなかった。ナタンとナイジェルは、ザックが豊かな地区と貧しい地区のコントラストを見せようとしているのだということがわかった。

「世界で最も大きなビジネスの中心地と、最大の株式市場があるこの都市で、こんなに貧困が存在するのは目を惹くことじゃない?」ザックが言った。

「その落差には驚かされるね」ナタンが言った。

「また同じことを訊くけど、このことを変えるために何ができるかな」ザックが言った。

ナイジェルはすぐにこう答えた。

「ザック、大したことはできないよ」

「そう考えている間は何も変えることはできないだろう」ザックが答えた。

「じゃあどんな変化を起こせるんだい」ナイジェルは苛立った様子で訊いた。

「だんだん多くの人々が変化を望めば、物事は少し動くんだ。例えば、この土曜日にデモがある。参加してみないか?」

「テーマは何?」ナタンが訊ねた。

「ここで不法に滞在して労働している人々の権利を守ることだ。彼らが他の労働者と同じ権利を持つことを求めるんだ。現状では彼らはしばしば不利な賃金条件で、雇用保険もないまま、他の人々よりもずっと長時間働かなければならない」

「そのデモの主催者は誰?」ナタンが訊ねた。

「いくつかの組合と他の団体だよ」ザックが答えた。

「ザックはよくやっている」ナイジェルが言った。「でもわかっていないのは、兄さんが毎回デモに多くの人々を集めてくるから頼られているに過ぎないことなんだ」

「ナイジェル、君がわかっていないのは、それが僕にとっては大事なことだってことなんだ」

「というと?」ナタンが訊ねた。

「僕はできるだけ多くの人々に、社会に存在する不公平に懸念を持ってほしいんだ」

「一緒にデモに参加するのはどんな人たちなの?」ナタンは訊ねた。

「誰もその人々に関わりたくないと思っているときに、僕が世話をした友人や知り合いだよ」ザックが言った。

「お金のない、社会の周辺に生きる人々だよ。ただザックのおかげで物が手に入るからという理由でついて来てるんだ」ナイジェルが言った。

「ナイジェル、そうじゃないよ。物事のネガティヴな面だけしか見てないよ。友人たちは僕がしていることのためについて来るんだ。僕が究極の目的まで導いて行けることを知ってるんだ」

「それは何のこと?」ナタンが訊ねた。

「兄さんはすべての人々に幸せがもたらされることを目的にしているんだ」ナイジェルが答えた。

「それ自体貴い目的だよ。でもどうやってその目的を成し遂げるの?」

「穏やかにこの4つの大きな原則を教えるんだ。失敗を恐れないこと。すべての生き物を尊ぶこと。不公平と戦うこと。そして、幸せを物質的な豊かさに依存させないことだ」

ナタンはその言葉がまたガンジーの教えだと気づいた。帰る途中、彼らはあまり言葉を交わさなかった。寝る前、ナタンは今日起こったすべてのことを考えていた。ニューヨークの多様性に富んでいる人種と街の慌ただしさに感銘を受けた。人が大勢いるが、ナタンはこのダイナミックな大都市を好きになった。国際色豊かなこの都市は、大河によって分けられた都市がしばしばその気質に大きな多様性をもたらすとシモンが言ったことを思い出させた。サンフランシスコやニューヨークも、川の流れによって二つに分けられている。それから、ナタンはザックの姿を思い浮かべようとした。まだ全てが見えているわけではないが、彼が自分の人生の中で重要な存在になるかもしれないとナタンは思った。これからの数日間でそれを理解する材料がより得られるだろうと考えた。翌朝、ザックはナイジェルとナタンを朝早く起こした。彼は陽気さを全く失っていなかった。彼の作った朝食は必ずしもナイジェルとナタンの口に合うものではなかった。テーブルにはグレープジュースとバナナのミューズリー、ライ麦パンが置かれていた。

今日3人はマンハッタンの中心部まで出かけた。国連を訪れ、いくつかアートギャラリーを訪れ、教会のゴスペルの練習に参加した。あるアートギャラリーで、ナタンはソフィの作品の所有者と話す機会を持った。彼の熱意を見て、ナタンはソフィの彫刻作品のカタログを彼に送ることを約束した。ニューヨークはコントラストに溢れた都市だとナタンは思った。ここでは夢を持つ人が自分自身で居られる。強く願えば大きな希望が叶う。そのことが大きなダイナミズムを生み、生活にポジティヴな態度をもたらしてくれる。ナタンはサンフランシスコにも同じ印象を持った。もちろん華麗さと美しさだけではない。他のどんな先進的な都市とも同じように、途中で勇気を失ったり、非現実的な期待を育んできたりしたすべての人々にとっては幻滅の源泉でもある。特にナタンは通りですれ違う大勢の浮浪者を見てきた。ナタンがそのことを話すと、ザックは何がその原因だと思うかと訊いてきた。

「大勢の住人がいる都市で、これほど多くの人が独りになっているのはどうしてだと思う?」

ナタンは、ザックとナイジェルがだんだん彼に多くの質問を投げかけ、彼の意見に興味を持っていることに気がついた。考えたのちにこう答えた。

「一番の元凶はこの世界を支配している競争の精神だと思うよ。多くの人々が、自分が一番で最も強く、美しく、賢く、力を持っていることを示すためだけに生きている。それが無関心、利己主義、嫉妬といったものを生んでいるんだ」

「競争は多くの不幸の原因になっているね」ザックが言った。「そしてそれがわれわれの社会なんだ。みんな成功した者の仲間に入ることを望む社会だ。成功しなかった者は弱者とみなされて孤独になるんだ」

ナイジェルはそれに同意した。

「成功して出し抜きたいという願望は家族の中にもあるね。人がいさかいをし合うのは全く馬鹿げたことだと思わない?」ナイジェルはナタンにそう訊ねた。

その声の調子から、ナタンはナイジェルが自分の体験に基づいた特定の何かのことを言っているのではないかと思った。ナイジェルも同じような状況に苦しんでいるのだろうか?彼の兄が大きすぎるプレッシャーに苦しんでいるのだろうか?ナタンは詳しく知りたいと思い、こう言った。

「みんな常により良い結果を期待しているよ。人々は自分にプレッシャーを与えているだけでなく、愛する人たちにもプレッシャーをかけている。例えば、親は子の幸せを願って、これから先の人生のために彼らが考える最善のことをしてあげる…」

「親は、子供に与えるべきなのは愛だけかどうかはわからない、でも自分自身を愛せない人は他人を愛することも難しいね」ザックが言った。

ナタンは自分の考えていることを確認した。ナイジェルがナタンに向かってこう言った。

「こういうこと関して僕たちは必ずしも良い経験をしていないことを、君は多分気づいているだろうね」

「すべての経験は物事の本当の価値を教えてくれるんだよ。僕たちの振る舞いは経験によってではなくて自分の期待によって決まるんだ」ナタンが答えた。

ナイジェルはナタンの明敏さにいつも驚いていた。彼らの会話は教師と生徒との関係のようになってきた。3人は人の多い中心部から離れ、セントラルパークに向かうと、たくさんの馬車が廻っていた。ザックはナタンをストロベリーフィールズの記念碑のあるところに連れて行って、ジョン・レノンが暗殺された場所を案内した。モザイクには『イマジン』と書かれていた。彼のとても有名な曲のタイトルだ。

「彼も恐怖に打ち勝つ勇気を持っていた。ナタン、みんながこれ位インスピレーションを持つべきだと思わない?」ザックが言った。

「ガンジーは他人の行為を気にすることなく、この世での自分自身の役割に専念せよと言ったんじゃない?」ナタンが答えた。

ザックはうなずいた。帰り道、ナタンは自分の今を分析した。ナタンはいかに容易に自分の意見を表現できるようになったかということを意識していた。彼がガイドとしての役割を果たす日が来るとカタリナが予言していた最後の言葉を思い返していた。ヴァディムも同じことを考えている、デボラはそう教えてくれた。寝る前にはいつものように、ナタンは今日起きたことを回想した。いつものように、こうした経験が自分をどう導くのだろうと考えた。そして勇気と自信を持った。彼の内なるガイドの声によってそうした感情を覚えた。ずっと助言をしてくれてきたその内なる声が、年を経るにしたがってだんだん賢明なものになっている。だが今日は様子が違った。その声は普段よりももっと明解なものだった。ナタンは集中した。一つひとつの言葉をはっきりと聴くことができた。まるで人がその部屋に居てナタンに話しかけているように、ナタンはそのメッセージをはっきりと受け取った。こう言ったのを聴いた。『示された道を辿り続ければ、時がすべての謎に終止符を打つ答えを運んでくるようになるだろう』そして静寂が訪れた。いま聴いた言葉で、ナタンはかつてないほどに、彼の人生に起こった全てのことは並外れた目的のためにあったのだと確信した。

デモの前の日、ナイジェルとナタンはザックをセントラルパークで見つけた。ザックがいつも友人たちとデモの準備をしている場所だ。ナタンとナイジェルが着くと、すでに彼らの集団が草の上に座っているのが見えた。その姿はどこか非現実的だった。ザックは彼らの前に居て説明をしていた。太陽が彼の白い服を照らしていた。30人程の人々が座ってザックの話を聴いていた。ザックは彼らに、友人や知人を反抗デモに誘うように言った。ナタンとナイジェルはザックに挨拶をして、彼らの後ろに廻って草の上に座った。二人は集団の中に裕福な人々もいることにすぐ気がついた。スーツを着た者もいた。おそらく昼食の時間になったのだろう。ナイジェルはナタンに耳打ちして、ザックの賛同者について間違ったイメージを持っていたと言った。何人か質問をして、ザックはまた非の打ちどころのない弁才を見せた。質問は社会の不平等と、それにどう対処するかに及んだ。興味深い考えがいくつか定義された。だがみんなが同時に自分の考えを表現して、聴く方の注意は急速に削がれた。そして、翌日のデモを進めるより良い方法に関して、従業員への最もふさわしい言葉、デモの展開の詳細などの質問が続いた。みんなが同時に話し、その声がだんだん大きくなった。ついにザックが静かにするように求めた。集団はすぐに静かになった。ザックは手をナイジェルとナタンの方に伸ばした。

「紹介しよう。金髪の男がナイジェル、僕の弟だ」

集団は振り返ってザックの手が伸びている方向を見た。ナイジェルは兄をただ見ていた。何をしようとしているのだろう。そう思った。

「ナイジェルは友達と来ている。彼の名前はナタンというんだ」

すべての視線が今度はナタンに注がれた。ナタンもザックが何をしようとしているのかと、興味を持って見ていた。

「ナタンは世界を旅している。彼と出会ってからまだ少ししか経ってないけれど、これだけは言える。彼ほど見識のある人には会ったことがない。彼はわれわれみんなのお手本だ」

ナタンは誉められて驚いたが、静かにしていた。ザックに、質問があれば何でも訊いてというような合図をした。

「まだ彼には訊いていないのだが、こう訊いてみたい。不平等や不公平と戦う最善の方法は何だと思うか、と」ザックが言った。

ナタンは今の状況をよく考慮して、最もふさわしい答えを探した。みんなが彼の意見に興味を持っていた。ナタンは、ザックが彼に意見を話して欲しいと言ったことを考えた。ナイジェルが兄を助けてほしいと言っていたことも思い出した。少しした後、ナタンは立ち上がってザックの肩に手を置き、ザックを支えてあげること、ザックを友人だと思っているということとを伝えた。そしてナタンは集まっている一人ひとりを見て、それから力強くこう言った。

「今日僕が目にしていることを嬉しく感じます。力強い意志、良いことをしようという意志の力に背中を押されて、みんながここまで来ていることは素晴らしいことです」

ナタンはしばらく沈黙した。自分がここにいる人々に向かって話した言葉が力強い印象を与えていることに驚いた。それ以上深く考えることなく、話を続けた。

「あなたたちの多くが心から不公平と戦おうとしているのが分かりました。そのことについて、大切なことを話します」

皆がナタンの話を聴いていた。

「友人たちよ、このことを心に留めてください。地上での生活を良くしようとするなら、意志よりもより強力で効果的なものがあります」

今や皆が、ナタンが話そうとしている大切なことを知りたいと思っていた。

「それはわれわれをとりまく世界を理解することなんです。われわれがすることはすべてそのことに依存している。もしわれわれの思考や感情のなかにその理解がしっかりと定着していれば、世界を理解していることがわれわれの意志を導いてくれます」

ナタンは少し話すのをやめて、言わんとすることを皆に理解してもらおうとした。スーツを着た男性がこう質問した。

「心の底の思考や感情はどのように知ることができますか」

「本当の動機は何かと考えることです。そのためには自分自身にこう問いかけるのです。『自分が成し遂げたいと思っている究極の目標は何だろう』と」

ナタンはしばらく黙って、熱っぽい口調でこう言った。

「デモをどう進めていくか、その方法について心配していると思います。でもあなたたち一人ひとりが、デモをする本来の理由を深く理解していますか」

ナタンはまた少しの間沈黙した。皆次の言葉を聴こうと熱心に耳を傾けていた。

「こう自分に問いかけてください。『自分にとって理想の世界とはどういうものだろう』『そこに自分はどう貢献できるだろうか』この自問自答に充分に時間を費やせば、洞察力を深くすることができます」

ナタンは立ち上がって、力強い言葉で話を終えた。長い沈黙が訪れた。彼の話が人々に集団的陶酔のような状態をもたらした。

「本気で良いことを求める人々はお互いを認識して集まってくるんです。互いに強力な絆を感じて、全ての潜在能力を駆使できるのです。彼らの行為が皆の手本となって、人々を巻き込んで少しずつ世界は変わっていき、そしてすべての人々にとって温かくひらめきのある出会いの場所になるのです」

ナタンは皆に礼を言ってすぐさま公園を立ち去った。ナイジェルは立ち上がってナタンに追いついた。ナタンは考え事に耽っていた。ナイジェルはすぐには話しかけにくいなと思った。ナタンは今起こったことに強く動揺しているようだった。しばらくしてナイジェルが言った。

「デボラやザックはすぐに見抜いてたんだ」

ナタンは答えなかった。ナイジェルが続けた。

「君は本当に並外れた人だ」

ナイジェルの言葉を聞いて、ナタンは顔を上げた。しかしまだ何も言わない。そして突然ナイジェルの足を止め、彼の腕をつかんでこう言った。

「自分でも何が起こったか解からないんだ。少し考えていたのは覚えていて、でもその後はすべてがひとりでに進んで。まるで僕の中の何かが出てきて僕がそれを邪魔できないうちにすべてをやってしまったみたいだ」

二人はまた歩き始めた。

「ひとつ訊いていいかな」ナイジェルが言った。

「ナイジェル、こうしたことがすべて僕をどう導いていくのか、僕にも解からないんだ」

ナイジェルは、自分が言おうとしたナタンへの質問を彼が見抜いていたことに驚いた。ナタンは疲れている様子で、様々なことが明らかになるまで待ったほうがいい、ナイジェルはそう思った。

少し経って、ナタンはナイジェルに今日は一人にして欲しいと言った。ナイジェルは街に買い物に行き、一方ナタンはブルックリンの南端にあるコニーアイランドの浜辺に行った。一人になって海を見たいと思った。これほどまでにそう思ったことはかつてなかった。浜辺の店で袋をもらえないかと訊ねた。店で服を脱ぎ、パンツ一枚になって、そこの女性の店員に荷物をそのままにしていてもいいかと訊いた。店員は微笑んで、袋を持ってナタンの荷物を入れて脇に置いた。ナタンは店を出て浜辺を横切り、海に入った。泳いだり潜ったりして何時間か過ごした。自分の高い使命とは何か、そのことについてもっと知りたいと思った。年が経つにつれて、自分の言葉と行動が、徐々に自分の生の源泉である自然の要素によってひらめきを得るようになっていることがわかった。その自然の要素が特定のメッセージを人類全体に送るという崇高な使命を彼に託し、自然の要素の中で彼は自分自身をより深く知るようになっている。その夜ナタンは遅く戻った。

次の朝、ザックは朝早く家を出た。ナタンは正午になってようやく起きた。ナイジェルが昼食を二人のために用意した。ナイジェルはナタンがよく休んだ様子を見て嬉しくなった。たくさん訊きたいことがあったが、今のところは訊くのを控えた。ナタンがまた関心のあることに取りかかる時がまた来ると考えた。午後になると、ナタンとナイジェルはあるデモにそれが終わる頃加わった。二人ともこうしたことには進んで参加したいとは思わなかったが、ザックを喜ばせるために参加した。デモのあと、ザックとナイジェル、ナタンはニューヨークの街に行った。ザックはナタンが前の日に話をしてくれたことに礼を言い、聴いていた他の人たちと同じように、彼も強く感銘を受けたと言った。

とても暑かった。3人はカフェテラスの席に座ることにした。ザックとナイジェルはナタンに色々訊きたいことがあってうずうずしていた。まずザックが話を始めた。貧困や不公平と戦う一番良い方法は具体的に何かと訊ねた。

「ナタン、君の言ったことを昨日と今日もデモの間考えてたんだけど、君の言う通りだよ。ビルを建てるための石をどう持って来ようかと、自分がどう貢献する方法を考える前に、一人ひとりがまず何を変えたいかを自分に問わないといけないね」

「お役に立てて嬉しいよ」ナタンが言った。

ザックは黙った。そして持っている力を振り絞るかのようにこう言った。

「ナタン、君に出会った人は皆、君がもっと人を導く行動を示せることを知っているよ」

「ザック、それはどういうこと?」ナタンが訊ねた、

「どうやって周りの人々をもっと感化させることができるのか、君に訊きたいんだ。貧しい人も豊かな人も多くの時間を労働に費やしているのが今の世の中だ。生き残ることか財産を増やすことかがみんなの関心事を独占しているんだ」

「働いていない人たちは、できる限り気晴らしをしたいと思っている。社会問題にはほとんど関心を持たない」ナイジェルがそう言ってザックに同意を示した。

「その理由は何だと思う?」ナタンが訊ねた。

ナイジェルとザックは意見を交わしたあと、ナイジェルがこう答えた。

「自分の問題にばかり心を奪われているからだろうね」

「いい答えだね」ナタンが言った。「多くの人が、他の誰かを守る前にまず自分自身が自由で幸せになりたいと思っている。自分の欲求が満たされたときに初めて他人の欲求に注意を向けることができるというわけなんだ」

「確かに、他人の権利を進んで守ろうとするのは幸福な人々だ」ザックが言った。

「自分の生活に十分満足していると、周りの人々に関心が向くように感じるんだ。そうして人は互いに助けあう必要を感じるようになる」ナタンが言った。

「どうして幸福な人々は他人のために尽くすことができるんだろう」ナイジェルが訊ねた。

「それは他人を理解しないと彼らのために尽くすことはできないし、自分自身の経験からでしか彼らの望むことを理解できないからだよ。自分を理解して、自分の望むことを理解しないとそれはできないことなんだ」

「昨日話してたのはこの知恵のこと?」

「昨日言ったことも、今日明日言うことも、同じ大きな知恵の一部だよ」

「自分の周りを見て、多くの人々が関心を持っていることを見ると、彼らが君の話すことを理解する日が来るとは想像しがたいよ。ナタン、君はまだ希望を持っている?」

「物事が変わるのは速いよ」ナタンは答えた。「一時の理解も一生の経験以上の価値に成りうるんだ」