開始

 

 

シドニー行きの便に乗っている時間は何事もなく過ぎたが、今回は誰もナタンを迎えるものはいなかった。荷物を待っている間、ナタンは一つのインスピレーションから世界の反対側まで行けるんだと思った。でも彼にとってそれは大事なことではなく、それよりも自分は自由だという感覚を味わっていることが大きかった。オーストラリアに来る理由はそのうちわかると思い、自分の直観に従った。いずれにせよ、彼はずっとオーストラリアに行きたいと思っていた。ただ一つ不安だったのは、フランスで働いて貯めたお金があまり残っていないことだった。ナタンはシドニーの中心街に行き、ホテルを探した。すぐに泊まる場所が見つかった。部屋は9階にあった。部屋からは港湾区域の美しい眺めが見えた。シャワーを浴びて、散歩をしに出かけた。太陽が高層ビルをきらきらと輝かせ、そよ風が吹いて、心地よいすがすがしい感覚をもたらしていた。お店の並ぶ通りが洗練された都市であるという印象を与えていて、人々もきれいに着飾っていた。たくさんある商業施設のなかのとある場所でナタンは食事をとることにした。人々を観察しながら食事をとり、そしてホテルに戻った。

次の日、ナタンは観光案内所に行って街の地図を買った。ボンダイビーチという、シドニーで最も人気のある海岸があることを知った。地図を片手に、ナタンはシドニーの中心街にある美しい地区を探索した。その次の日、ナタンは本と泳ぐのに必要なものを持ってボンダイビーチに向かった。活気のある場所で、ナタンは一日中そこで過ごした。夜になってホテルに向かう途中、食べ物を買おうとお店の前で足を止めた。椅子に座って話をしている二人の男性に挨拶をした。一人は中国系の人で髭を生やしていた。彼がその店の店主だ。もう一人は肌が白く、腕が日に焼けていた。買い物をしながらナタンは二人の会話を聞いていた。話はおよそ夜にお店で聞く類のものではなかった。親友どうしに見えるその二人は、感情と理性、どちらがより信頼できる情報源なのか、という話をしていた。中国系の男性は、感情は多くの人々が思っている以上に重要なのだ、と言った。もう一人はピートという名前で、感情よりも知性を信じる、と反論した。お金を払うときに、ナタンはその議論に加わるように促された。ピートは自分の考えが正しいと考えていて、ナタンが彼の考えと同じではないとは思いもよらないのだった。

「そうだろう、感情よりも理性を信頼するべきだと思わないか?」

ナタンが答えようとする前に、店主が自己紹介をして握手をしようと手を差し出した。ピートも同じようにした。ナタンも名を名乗って、僕はオーストラリアに来たばかりなんだ、と言った。二人はようこそ、と言った。店主のチアオがこう言った。

「もちろん理性はとても大事さ。情報を自分の知識に変えてくれるものだから。ピートに理解してもらおうとしているのは、感情はいい情報と悪い情報とを区別するために必要な明晰さを持っているということなんだ」

ピートとチアオはナタンの反応を待っていた。二人とも自分の考えが正しいかを確かめたいと思っていた。

「ピート、『理性』をどう理解しているのか、詳しく教えてくれない?」

「理性というのは知性であり、合理的な論理であり、自分の確信を強めてくれる能力を持つものだ」

「自分が正しいと思わせるのはまさにその確信だってことは考えられない?」

その一言で、ナタンは簡単に、しかし確実に、ピートに自分が確信していることに疑いを持たせた。

「確信を持つことは必要じゃないか?」ピートは訊ねた。

「何に対しても確信を持たない勇気のほうが必要だよ」ナタンはそう答えた。

「じゃあ何に対しても確信できなければ、何に根拠を持てばいいんだ」ピートが訊ねた。

ナタンはピートとチアオに向きあって椅子に座った。

「感情は人生に意味を与えるんだ」ナタンが答えた。「もし感情を持たなかったら、メロディーの甘美さも海岸の美しさも、愛撫の優しさも、感じることができなくなってしまう」

「でも感情はいつも正しい情報を与えてくれるとは限らない」ピートが言った。

「感情は決して嘘をつかない。それを正しく解釈するかどうかは自分にかかっているんだ」

「どうやって?」

「内なるガイドに従ってその源を見つけることによってだ」

ピートは驚いた。ナタンを見て、それからチアオを見た。ナタンは黙っていた。チアオが言った。

「ナタンは直観のことを言っているんだよ」

ピートはチアオの言っていることが正しいのかと、ナタンを探るような目で見た。ナタンはうなずいてみせた。ピートはナタンの方を向いて言った。

「直観?僕には奇妙なものだよ。どういうことかもう少し説明してよ」

「目の見えない人にこれが視覚だとか、耳の聴こえない人にこれが聴覚だと言うようなものだけど…直観は僕たちが受け取る無数のメッセージを解釈できる能力のあるものだよ」

「直観は見えるものなの?触れるものなの?」

「見ることも触ることもできないものの新しい側面を、いつも見抜かせてくれる力のことだよ」

チアオは熱心にナタンの話に耳を傾けていた。ピートと同じように、彼もナタンが自分の考えを説明する様子に感心していた。

「直観の力は、自分自身でそれを体験してはじめてわかるものなんだ。ピート、その力を本当に意識するようになったら、世界が全く違って見えるんだ。本当だよ」

「多くの人は証拠が欲しいと思うだろう。その内なる能力のことを疑うんじゃないか」チアオが言った。

「そういう人たちは証拠を探すことを学んだんだ。証拠を見ると僕たちは確信した気になるけど、人生の秘密を本当に理解するためには、常にすべてのことを見直さなくてはいけない」ナタンが言った。

「君が言うことは、人生が本当に深い意味を持っていることを示している。でも、よく本当にそうだろうかとよく疑問に思うんだよ」ピートが言った。

「人生の意味を理解できるようになるためには、自分にこう訊ねてみることだよ。『自分の人生にはどういう意味があるのだろうか』この疑問に対する答えを探せば、理性の限界が見えてくるでしょう」

「理性によってじゃなかったら、どうやって人生の意味がわかるというんだい?」ピートが訊ねた。

「無限にあるものの存在によって」ナタンはそう答えた。

ナタンは黙り、チアオは何か言わなければと思った。いずれにしても、ナタンはチアオがこうした知識を持っていたが、その知識を伝えることができずにいると思った。

「ナタンは人間の精神のことを言っているんだ」チアオは言った。

チアオとピートは、ナタンが二人のそれぞれに見合った知識を与えているとわかった。ピートには人生の本質に関する知識が必要で、チアオは彼の持っている知識を他人と分かち合う方法を学ぶことを必要としていた。

「人間の精神は自由で、すべてのものに浸透するんだ。われわれを自由にさせてくれるのはこの精神なんだ」

「何から自由にさせてくれるんだい?」ピートが興味を持った。

チアオがそれに答えられそうな様子を見たナタンは、チアオに話をさせた。

「理解のなさから自由にさせてくれるのさ。精神が発達すればするほど、人生をより受け入れることができるんだ。より幸せを感じて、忍耐強くなって、後悔や執着がなくなるんだ」

ナタンが思っていた通りだった。チアオは理論的な知識をかなり持っている。ピートにもそれがわかっていた。

「今二つの感情を覚えている。まず、僕の人生は自分が考えているよりも大きな意味を持ちうることに満足している。でも一方で、無益で表面的なことに多くの時間を費やしてしまったという感情もある」ピートは言った。

「今日考えたことを明日も考え続けることだよ。そうすれば一つ目に言った感情だけを覚えるようになる。二つ目に言った感情は、自分の精神は真実で善いものすべてのためにあると理解したときに消えてしまう。価値あるものは何も精神によって失われずに、ずっと内面に溶け込んで行くんだ」ナタンはそう話して立ち上がり、二人と話ができたことにお礼を言った。二人もナタンが話してくれたことに対して感謝を示した。ナタンはそれではと言って店を出た。チアオが外に出てナタンを引き止めた。

「待って。どこに住んでいるんだい?」

「向かいのホテルだよ」

「またお店に来るかい?」

「そうして欲しい?」

「変に聞こえるかもしれないけど、君は僕にとってとても大事な存在のような気がするんだ」

「そういうことなら、それはお互い様だね」

そう言って、ナタンは歩きはじめた。

「質問に答えてくれよ!また君に会えるのか?」

ナタンは通りを渡ろうとするところで立ち止まり、チアオに笑い掛けてこう言った。

「でももう答えたよ」

チアオはどういうことか全くわからなかったが、何か言う前にナタンはもう通りを渡って、チアオに手を振ってからホテルに入っていった。次の日ナタンは小さなキャンピングカーを借りた。シドニーから出て海岸に沿って北に向かった。数日のうちにナタンはクィーンズランド州に着き、そこに長く滞在した。広大な砂浜、鋸歯状の山々と、亜熱帯の気候はナタンをとても落ち着かせるものだった。彼はブリスベンの街で長い間過ごした。レッドクリフにも行き、そこでナタンは本を書こうと決めた。定期的に書いていって、その原稿はどんどん多くなっていった。ナタンは、文学がメッセージを伝えるための素晴らしい手段だということを理解していた。実はずっと前から書いてみたいと思っていたのだが、ついに書こうと決心したのはウイアラの才能に出会ったからだった。彼女と話をしてからナタンは、自分のメッセージが適切な形で広がっていくだろうということに自信を持った。雷雨の夜に、ナタンは最初のページにとりかかった。夜明けになって空が明るくなってきても、まだ書き続けていた。時間が経つのを忘れていた。思考がとめどなく精神に流れ込んでいった。その思考を一晩中書いていこうと努め、できるだけまとまりのあるものを書こうとした。朝になって、ナタンはどっと疲れを感じた。寝る前にもう一度書いたものを読み返してみた。まだタイトルがなかった。構成をもっと良くする必要があった。しかし無数の言葉が流れるように出てきたことを実感した。満足感のなかでナタンは眠りについた。とても大きな意味のある作業が始まったんだ、終わるまではこれから何日もかかるだろう、と思った。

ブリスベンを出て、ナタンは沿岸にある小さな街をいくつか訪れた。毎日海に泳ぎに出かけた。書くことのインスピレーションが一番たやすく生まれるのは水の中にいるときだった。カルンドラに滞在して、道で作品を見せて売っているある画家に出会った。山の風景を描いた美しい絵が並んでいた。グラスハウスマウンテンという名前なんだよ、と画家は言った。聖なる山で、隣人を愛することがどれほど大切かを思い出させるために存在するんだ、と言った。絵画の美しさにとても心を打たれて、ナタンはグラスハウスマウンテンをこの目で見てみようと思った。次の日朝食をとった後にそこへ出かけた。着いて、景色の美しさにとても感動したナタンは、山のどれかに登ってみることにした。車を降りて、山を一つひとつじっと観察した。そしてヌグングンという山を選んだ。登るのはたやすいことではないと思った。ヌグングンの頂上までは数時間かかった。頂上に着くと、平らな岩に腰掛けて休み、目の前に広がる素晴らしい景色を眺めた。周りを囲む自然の美しさを鑑賞しているうちに、一本の古い木が目を惹いた。何かがその木に近づくように仕向けた。立ち上がって木に向かって歩いていった。両手でその木に触れ、木を見上げた。突然高いところにある枝の樹皮に何か書いてあるのが目に入った。でも枝がとても高いところにあって読めなかった。とても興味を惹かれて、その木に登ってみることにした。両腕と両足の力で、最初の枝までたどり着いた。そこから文字が読めた。しかし書いてある言語がわからなくて、それ以上のことを知ることはできなかった。リュックサックに書くものが入っていた。紙とペンを取り出して、文字を書き写した。そして木を降りてきて、岩に戻って座った。書き写した言葉はどんな意味なのか解明しようとした。しばらくすると、風がかなり強くなって砂が高く舞い上がり、ナタンは目をつぶった。風が収まって目を開けた。するとそこには若い女の人がいた。肌が褐色で、黒い髪が風に揺れていた。彼女はナタンの方に近づいてきた。ナタンは彼女をじっと見ていた。ナタンと同じように、彼女も心を打たれている様子だ。彼女はナタンの方に近づいてきた。親しみを込めた目でナタンに笑いかけていた。ナタンは何か言おうとしたが、声が出なかった。彼らしくなく、ぎこちなく感じた。女性は名前を名乗った。リワナという名前だ。ナタンは気を取り直してこう言った。

「すみません」そして名前を名乗った。「ナタンと言います」

「すみません、って言う必要はありません。それを言うのは私の方よ」

「どういうこと?」

「ここで誰かに会ったことにとても驚いてしまって、あなたに考える暇を与えなかったから」

ナタンはその言葉をどう解釈していいかわからなかった。どういう意味なのだろう。考える暇を与えなかった…この女性は何を言わんとしているのだろうか。

「ここで何をしているのか訊いてもいい?」リワナが言った。

「僕は旅をしている途中で、この山が見たかったんだ。見に来てみたらどれかに登ってみたいと思って」

「どうしてこの山を選んだの?」

ナタンはリワナがその深い理由を期待しているのだと思った。

「いつものように、自分のインスピレーションに任せてみたんだ」

リワナはナタンをしばらく見ていたが、黙ったままだった。ナタンは訊ねた。

「このあたりに住んでいるの?」

「私は言ってみればどこにでも住んでいるようなものだけど、答えるとすればアデレードで育ったの。養子として両親と一緒に暮らしてる。両親はポーランドの出身で、ずいぶん前にオーストラリアに移って住んでいるの」

リワナが養子だと聞いて、ナタンは生みの親を知っているか訊きたくなった。しかし質問をする前に、リワナはこう答えた。

「私の両親はアデレードの北部の出身なの。オーストラリアの先住民アボリジニの部族よ」

「まだ生きていらっしゃるの」

「いいえ、この国でも未曽有の激しい暴風雨に見舞われて命を落としたの。私が助かったのは奇跡よ」

「何が起きたの」

「私は発見されてアデレードに連れて来られたの。そこでいまの両親と出会ったの。二人は私をとても大事にしてくれたのよ」

ナタンはリワナの話を聞いて声を失った。彼女の話はナタンの境遇ととても似ていた。

「他にも助かった人はいたの?」

リワナはナタンを見て、ナタンの腕をつかんだ。

「私たち似ているところがたくさんあるのよ、ナタン」

ナタンははっとした。二人の話が似ていることもそうだが、ナタンがまだ何も言わないうちに、リワナがナタンの過去のことを知っている様子だからだ。ナタンの好奇心が強くなった。

「きみはどうして今日ここにいるの?」ナタンは訊ねた。

「私も自分のインスピレーションの導くままにここに来たのよ」

この言葉にナタンは戸惑った。思考を整理しようとして、また岩の上に座った。リワナはナタンの横に座った。ナタンが手に持っている紙きれを見て、何を書いてあるのか訊ねた。ナタンは紙を広げて彼女に見せた。リワナは顔を上げて、ナタンが登ったあの木を見た。そしてその言葉が彫ってある枝を見た。ナタンは確信した。何か特別なことが起こっていた。

「どうしてその言葉があの木に書いてあるってわかったの?」ナタンは訊ねた。

リワナはしばらく何も言わなかったが、こう答えた。

「私の言うことを信じてくれる?」

「もちろん、本当のことを言ってくれたら、僕は信じるよ」

「これは秘密なんだけど、あなたには教える」

リワナはナタンのそばに座り、ナタンの手をとって言った。

「私特別な能力を持ってるの」

「それは何?」

リワナは大きく息を吸った。

「私は思考の世界を感じ取れるの」

「それはどういうこと?」

「思考の行く方向を見ることができるの」

「思考はどう伝わるの?」

「すべての思考の望むことは伝わるのよ」

ナタンは何も言わずに考えていた。リワナは本当のことを言っているのだろうか。彼女は本当に特別な能力を持っているのだろうか。

「ねえ、思考はどんなふうに移動するの?」

「どこにでも移動するのよ。私たちが生きている次元では、思考は私たちを行動させようとする。それは、思考が感情の誘うままになっているときに成し遂げられるのよ」

「いまここにある思考はどんなものか教えてくれない?」

「あなたには二つの感情が見える。その一つの感情は、私もこの世に崇高な使命を持って送られてきたのだとあなたに思わせている」

ナタンは、リワナの言うことは本当だと思った。

「もう一つの感情は、どの自然の要素が私をこの世に送り込んだのか、知りたいと思わせている」

ナタンは、リワナは自分がサハラ砂漠で学んだ知識を持っているとわかった。リワナは現れてくる感情だけでなく、それが導く思考も見ることができるのだ。しかもすべて意識して。

「きみをこの世に送り込んだ自然の要素は何か知りたいな」ナタンは言った。

「あなたは水とつながっていて、私は風とつながっているのよ」

「自分の高い使命を知ってるの?」

「いえ、まだね。あなたと同じように」

再び沈黙が訪れた。

「私たちが今日出会ったのは、お互いの体験を分かち合うためだと思うの」リワナは言った。

「それから、それぞれの使命をもっと理解するためにね」

「それから、私たちはお互いを必要としていると思うの。それがあの木が私たちに伝えようとしたメッセージよ」

「木がメッセージを伝えられるの?」

「他のどんな生き物も同じよ」

リワナはナタンの手に持っている紙を取り、小さな声で読んだ。そして微笑んだ。

「それで?」

「我慢できなくなっているようね」

「きみに隠すことは何もないよ」

リワナはウインクをした。

「面白いよ」彼女は笑ってそう言った。ナタンの手をとって、大きな声で言った。

“Cooma el ngruwar, ngruwar el cooma, illa booka mer ley urrie urrie!“

そして真剣な表情になった。

「こう書いてある。『一人はみんな、みんなは一人、自分というものは死なない』」

「何語で書いてあるの?」

「アボリジニが使っていたとても古い言葉で、夢の時間のメッセージを読み解くためのものだったの」

「夢の時間って?」

「別の次元に同時に広がっている時間のことよ。この現実とパラレルになっている現実なの」

「夢の時間では何が起こっているの」

「そこで思考が生まれて、私たちの生きる次元に意味を持とうとするの」

リワナは自分のリュックから食べるものを取り出した。それからリュックの下に付いている毛布を外して下に敷いた。そこに座って、ナタンにその横に座るように言った。

「ねえ、きみの話のお陰で、世界にあるすべての悲しみがどこから来るかわかったよ」

「悲しみを無くすには、一つひとつの行いが、自分の思考したことの結果で、それが今度は感情を生むことをみんなが理解する必要があるよ」

「みんな改めて自分の感情を感じるようになることが必要だということだね」

リワナは笑うと、ブドウを一房持って水で洗った。それを二つに分けて半分をナタンに渡した。

「また笑ったね。僕何かおかしいことを言った?」

リワナは優しい目でナタンを見た。

「ナタン、あなたほど深く自分の感情を意識している人はいないのよ」

その言葉を聞いてナタンは考えた。

「じゃあきみの得意なことは何?」ナタンは訊ねた。

「もちろん思考を伝えることよ」

沈黙が訪れた。

「あなたは木に書いてあった言葉をどう解釈する?」リワナが訊いた。

ナタンはしばらく考えてこう言った。

「自分の使命は大きな使命の一部分だということだと思う」

リワナは頷いた。

「私もそう思う」

ブドウを食べたあと、リワナとナタンは山を下りた。リワナは車でナタンの後についてカルンドラまで行き、3日間そこでお互いの体験を話した。二人は少しずつ自分たちの崇高な使命の本質を理解していった。互いに自分の存在が相手にとってどんな意味を持つのかをだんだん意識するようになった。3日目になって、二人が別れる時が来た。ナタンはケアンズに向かって旅を続け、リワナはロシアに向かう。出発の前に、二人はお互い特別な存在であることを話した。リワナがこう言った。

「あらゆる新しい生の源である水のように、あなたは他の誰よりも新しい思考を生み出す能力があるのね」

「あらゆるものを動かす風のように、きみは他の誰よりも古くからの思考を伝える能力があるんだ」

そう言ってナタンはリワナにウインクをして、二人は抱き合った。二人ともいつか再会するだろうと確信した。